ケーススタディ(一般論)

非公開化で評価がゼロになった株式を
子へ1円で譲渡し、買戻条項を付けるとき

上場廃止(非公開化)に伴う借入で、純資産価額方式の評価がゼロになった株式を、
少数株主である親が年少の子へ1円で譲渡し、
一定の事態が生じたら1円で買い戻せる条項を付ける案を題材に、
課税関係と、見落としやすい民事・評価上の論点を整理しました。

本ページは一般的な整理であり、個別の事案への当てはめは、
株主構成・契約書・評価明細などの資料を確認したうえで行う必要があります。
法令等と評価の見直しの状況は、2026年10月27日時点で確認しています。

結論

先に結論

致命的になりうるのは、税額の計算よりも、
その株式が本当に子のものと認められるかの部分と考えられます。
年少の子が買主で、親が子の財産を管理し、親だけが1円の買戻権を持つ形では、
「名義だけ子に移した親の株式(名義株)」と認定されるおそれがあります。

あわせて、未成年の子との売買や買戻条項は、親子の利益相反行為に当たり、
家庭裁判所での特別代理人の選任が必要になる可能性が高いと考えられます。

評価ゼロの今なら、贈与でも贈与税・生前贈与加算額はゼロです。
1円売買を選ぶ税務上の利点は乏しく、取得費を引き継げる分、
買戻条項のない書面贈与のほうが安定すると見ています。
ただし「子へ移すこと」と「取り戻せること」は、税務上は両立しにくい構造です。

質問ごとの答え

Q1
この案の整理に、致命的な誤りはあるか個人間の売買で行為計算否認がない、買戻し時の差額は親へのみなし贈与、という整理は妥当です。
一方、「子も59条で時価譲渡」は誤りで、「課税庁は移転の効力を争えない」は言い過ぎです。
争われるのは否認ではなく、財産の帰属(名義株)の認定です。
Q2
買戻条項は、どこまでなら設けてよいか1円での買戻し合意も、民事上は直ちに無効とはいえないと考えられます。
ただし、発動事由が広く、親の裁量で使え、価格が固定額であるほど、
実行時の贈与税と、名義株の認定の両面でリスクが高まります。
Q3
1円売買と書面贈与は、どちらがよいか生前贈与加算は贈与時の価額で行われるため、評価ゼロの今の贈与なら加算額もゼロです。
贈与なら子は親の取得費を引き継げますが、1円売買では取得費が1円になることがあります。
税務上は書面贈与のほうが有利と考えられます。

詳しい回答は詳細タブの1章へ

よくある認識の当否

認識判定ポイント
買戻条項の内容によっては、真正な譲渡かどうかに疑義が生じる妥当疑義が向かう先は、行為計算否認ではなく、財産の帰属の認定(名義株)です。
買戻し時の時価と1円の差は、子から親へのみなし贈与妥当実行時の時価で判定します(相続税法7条)。
子から親への贈与は暦年課税です。
子も時価の2分の1未満なら、59条で時価譲渡誤り時価譲渡とみなすのは法人に対する譲渡だけです(所得税法59条1項2号)。
個人間は損失の切捨て(同条2項)のみです。
持株会の固定価格と同じく、大きな問題にならない一部妥当持株会の判例は民事上の有効性の判断で、税務上の時価は拘束しません。
配当還元で決まる限り、課税リスクは限定的現行は概ね妥当純資産の回復や、評価の見直しで、時価が大きくなる可能性があります。
個人間の売買なので、行為計算否認はない妥当相続税法64条・所得税法157条は、同族会社等の行為が対象です。
私法上の否認はなく、移転の効力を課税庁は争えない言い過ぎ帰属の認定や仮装行為の認定は、事実認定として通常行われます。
贈与だと、死亡時の価格で持ち戻しになる誤り生前贈与加算は7年以内で、加算額は贈与時の価額です(相続税法19条)。

一つずつの検証は詳細タブの3章へ

致命的になりうる3点

税額より先に確認すること
  1. 名義株と認定されるおそれ
    親だけが買戻権を持ち、1円の資金も親が出し、配当や議決権も親が管理していると、
    将来の親の相続で、その時点の評価額で親の財産に戻される可能性があります。
  2. 利益相反と特別代理人
    親が子を代理して親自身と売買することは、外形上の利益相反に当たると考えられます(民法826条1項)。
    特別代理人によらない契約は無権代理となり、効力が不安定になります。
  3. 株主間契約・融資契約・譲渡承認
    非公開化後の株式は、譲渡制限や株式担保、譲渡禁止の約束が付いていることが多く、
    親族への譲渡そのものができない可能性があります。

詳しくは詳細タブの4章・5章・13章へ

1円売買と書面贈与の比較

項目1円売買(買戻条項付き)書面贈与(買戻条項なし)
贈与税評価ゼロなら生じない評価ゼロなら生じない
生前贈与加算なし贈与時の価額(ゼロ)で加算
子の取得費原則1円。
所得税上の時価によっては親の取得費を引継ぎ
親の取得費を引継ぎ
親の譲渡損失一般株式等の中でのみ通算、繰越不可。
切り捨てられる場合もある
生じない
売買実例の議論余地あり生じない
利益相反特別代理人が必要負担のない単純贈与なら原則として不要

前提ごとの違いは詳細タブの9章へ

評価の見直しで、買戻し時の時価が変わる

見直し案(国税庁の有識者会議・2026年8月の骨子)

配当還元方式の対象を、議決権保有割合と株式保有割合を用いる判定(いずれかの割合が3%未満)に絞り、
同族関係者の範囲も縮小する案が示されています。
議決権1割程度の親子グループは、対象から外れる可能性があります。

改正後に1円で買い戻すと、時価が原則的評価で測られ、差額の贈与税が大きくなるおそれがあります。
適用時期は報道では2028年1月以後とされていますが、公式には未確定です。

見直し案の内容は詳細タブの7章へ

買戻条項を設けるなら

1
発動事由は客観的なものに限る反社会的勢力への該当、刑の確定、破産、差押えなど、第三者が判断できる事由にし、
「思わしくない事態」のような包括的な事由や、親の任意の行使は避けます。
2
価格は時価が最も安全固定額にする場合は、実行時に時価との差額が親への贈与になる前提で、税負担を見込みます。
3
期間と承継を決める行使できる期間を区切り、親の死亡時に失効するか承継するかを定めます。
4
保有中の実態を子のものにする株主名簿は子の名義、配当は子の口座で子のために管理し、
契約時は特別代理人を選任します。

設計の考え方は詳細タブの11章へ

主な確認事項

  1. オーナーグループの議決権割合と同族株主の有無、親が役員かどうか
  2. 株主間契約・融資契約による譲渡の制約と、会社の譲渡承認の手続
  3. 親の株式の取得経緯と取得価額、非公開化の際の取引価格
  4. 買戻条項の発動事由・行使の判断者・価格・期間・親の死亡時の扱い
  5. この取引の目的(子へ移したいのか、取り戻せる状態を保ちたいのか)

確認事項の全件は詳細タブの14章へ

1 質問への回答(詳しく)

Q1 この案の整理に、致命的な誤りはあるか

税額の計算の整理は、おおむね妥当です。
個人間の売買は行為計算否認(相続税法64条1項、所得税法157条)の対象外で、
買戻し時の時価と1円の差額は、子から親へのみなし贈与になります(相続税法7条)。

ただし、「子も59条で時価譲渡」は誤りです。
時価の2分の1未満の譲渡を時価で譲渡したものとみなすのは、法人に対する譲渡に限られます(所得税法59条1項2号)。

より重要なのは、「私法上の否認はなく、移転の効力を課税庁は争えない」という前提です。
課税庁は契約を別の形に引き直すことは原則できませんが、
財産の実質的な帰属者の認定は、事実認定として通常行います。
この案の弱点は、名義株と認定されるおそれ(4章)と、利益相反(5章)にあります。

Q2 買戻条項は、どこまでなら設けてよいか

民事上は、公序良俗に反しない限り、1円での買戻し合意も直ちに無効とはいえないと考えられます。
一方、税務上は、発動事由の広さ、親の裁量の有無、価格の決め方で、リスクが大きく変わります(11章)。

Q3 1円売買と書面贈与は、どちらがよいか

評価ゼロの今であれば、贈与でも贈与税はかからず、生前贈与加算も贈与時の価額(ゼロ)で行われます。
贈与なら子は親の取得費を引き継げるため、税務上は書面贈与のほうが有利と考えられます(9章)。
ただし、贈与に返還・買戻しの条項を付けると、名義株と利益相反の問題は同じように残ります。

2 事例の前提

3 よくある認識の検証

真正な譲渡かどうかに疑義が生じる

方向性は正しいと考えられます。
ただし、疑義が向かう先は行為計算否認ではなく、財産の帰属の認定です(4章)。
発動事由が親の裁量で決まる、価格が時価と無関係の固定額である、という条項ほど、
親の支配が続いていると見られやすくなります。

買戻し時の差額は、子から親へのみなし贈与

正しいと考えられます。
買戻し時点の時価と1円との差額が、著しく低い価額の対価による譲受として、
子から親への贈与とみなされます(相続税法7条)。
特約を結んだ時点では課税されず、実行時に課税関係が生じます。

時価は、取得者である親の取得後の株主区分で判定します(財産評価基本通達188)。
子から親への贈与には相続時精算課税を使えないため(相続税法21条の9)、暦年課税となります。

子も時価の2分の1未満なら、59条で時価譲渡

誤りと考えられます。
時価の2分の1未満の対価による譲渡を時価で譲渡したものとみなすのは、
法人に対する譲渡に限られます(所得税法59条1項2号、同法施行令169条)。

個人から個人への譲渡で働くのは59条2項で、
時価の2分の1未満の対価で譲渡して損失が出た場合に、その損失をなかったものとみなすだけです。
買戻し時の子は、取得費1円・対価1円のため、通常は損益が生じません。
59条1項2号が実際に問題になるのは、種類株式にして会社が取得する形をとった場合です(12章)。

持株会の固定価格と同じく、大きな問題にならない

民事上の有効性については参考になります。
従業員持株制度で、取得価額(額面)による買戻しの合意を有効とした最高裁判決があります
(最判平成7年4月25日、最判平成21年2月17日)。

ただし、これらは民事上の合意の効力の判断で、税務上の時価を拘束するものではありません。
また、従業員が制度を理解したうえで自由意思で取得したこと等が理由とされており、
年少の子が内容を理解して合意できない場面とは前提が異なります。

配当還元で決まる限り、課税リスクは限定的

現行の評価通達のもとでは、おおむね妥当と考えられます(6章)。
ただし、純資産が回復した場合や、評価の見直し後に買い戻す場合は、
時価が大きくなる可能性があり、「限定的」とは言い切れません(7章)。

行為計算否認はなく、私法上の否認もなく、移転の効力は争えない

行為計算否認がないという点は、正しいと考えられます。
相続税法64条1項と所得税法157条は、同族会社等の行為又は計算を対象としており、
個人間の売買そのものは対象外です。

一方、私法上の否認や移転の効力の点は、言い過ぎと考えられます。
契約の真の内容の認定、仮装行為(民法94条)の認定、財産の実質的な帰属者の認定は、
事実認定として通常行われます。

贈与だと、死亡時の価格で持ち戻しになる

当たらないと考えられます。
生前贈与加算の期間は7年(段階的に延長)で、加算されるのは贈与時の価額です(相続税法19条。9章)。

4 名義株(財産の帰属)の認定

株式の帰属は、取得資金の出所、株主名簿の記載、配当の受領と管理、議決権の行使、
処分権限の所在、名義人の認識などから、総合的に判断されると考えられます。
名義変更で対価の授受がない場合は、原則として贈与として扱う取扱いもあります(相続税法基本通達9-9)。

この案で不利に働きうる事情は、次のとおりです。

問題が表に出る時期

評価ゼロの今は課税額が出ないため、問題が表に出るのは、何年も先の親の相続税調査になりやすいです。
その時点で反証資料をそろえるのは難しく、契約時から実態の記録を残しておく必要があります。

5 未成年の子との契約(利益相反)

親権者が子を代理して親自身と売買することは、外形上、親子の利益が対立するため、
利益相反行為に当たると考えられます(民法826条1項。判定は行為の外形による、最判昭和42年4月18日)。
家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、特別代理人が子を代理する必要があります。
買戻権を行使するときの子から親への売買も、同じ扱いになると考えられます。

選任の審理では、子に不利な条項(1円で取り戻される条項)の内容が問われる可能性があります。
特別代理人によらずに契約すると無権代理となり(民法113条)、
子が成年に達した後に追認しない限り、効力を主張できない状態になります。

一方、負担のない単純な贈与は、子が利益を受けるだけのため、
利益相反に当たらないと整理されるのが一般的です。
ただし、贈与に返還・買戻しの条項を付けると、同じ問題が生じる可能性があります。

6 現行の評価通達での評価

場面評価方式
オーナーグループが同族株主に当たり、親子グループが同族株主以外配当還元方式(財産評価基本通達188(1)、188-2)
同族株主のいない会社で、親子グループの議決権が15%未満配当還元方式(同188(3))
配当還元価額の上限原則的評価額が上限(同188-2ただし書)。
原則的評価額がゼロなら、配当還元価額もゼロ

配当還元価額は、年配当金額を10%で還元し、1株当たり資本金等の額の50円に対する倍数を掛けて計算します。
年配当金額が2円50銭未満や無配の場合は2円50銭とするため、
純資産が回復すると、無配でも1株当たり資本金等の額のおおむね2分の1の価額が生じます(現行通達による計算)。
1株当たり資本金等の額が大きい会社では、株数次第で金額が膨らみます。

なお、所得税(59条2項の判定)の時価は、譲渡する親の譲渡直前の株主区分で判定し、
純資産価額の計算で土地等・上場有価証券を時価とし、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないなど、
相続税評価と計算が異なります(所得税基本通達59-6)。

7 評価の見直し案と買戻し時のリスク

国税庁の「取引相場のない株式等の評価に関する有識者会議」の骨子(第5回・2026年8月20日資料)では、
配当還元方式を特別の例外措置として残しつつ、次の見直し案が示されています。

3%の判定を個人単位で行うかグループ単位で行うかは示されていませんが、
議決権1割程度の親子グループは、いずれの単位でも3%を超える可能性が高く、配当還元方式の対象から外れるおそれがあります。
その場合、買戻し時の時価は原則的評価(残余利益方式。組織再編直後の会社などは純資産価額方式とする案)で測られ、
1円との差額に多額の贈与税がかかるおそれがあります。

また、第6回資料(2026年9月16日)では、
配当還元価額を原則的評価額で頭打ちにするかどうかも、今後の検討事項とされています。
「原則的評価がゼロなら配当還元もゼロ」という現行の前提が、改正後も続くとは限りません。

適用時期

報道では2028年1月1日以後の相続・贈与からとされていますが、公式には未確定です。
骨子自体も、最終的には税制改正のプロセスで決定するとしています。

8 総則6項

評価通達どおりの評価が、実質的な租税負担の公平に反する特別の事情がある場合には、
通達によらない評価が認められます(最判令和4年4月19日)。

裁判例内容
東京高判令和7年6月19日相続直前の増資・配当で特定の評価会社の判定を外した非上場株式の事案で、総則6項の適用を認めた(地裁は否定)。
上告されたと報じられており、その後の結果は確認できていない
東京地判令和6年1月18日
東京高判令和6年8月28日
売却交渉中に相続が発生した非上場株式の事案で、総則6項の適用を否定し、確定
有利に働く事情評価ゼロの原因
評価ゼロは、オーナー側の非公開化と借入によるもので、
親子が自ら評価を下げたわけではありません。
不利に働きうる事情時期と構造
評価ゼロの時期を選び、改正前の駆け込みとして移転し、
親が1円の買戻権を残しています。
非公開化の際の取引価格との乖離が大きい場合は、問題にされる余地があります。

9 1円売買と書面贈与の比較

生前贈与加算と相続時精算課税

相続または遺贈で財産を取得した人が、相続開始前7年以内に受けた贈与は、相続税の課税価格に加算されます
(相続税法19条。令和6年1月1日以後の贈与から段階的に延長され、令和13年1月1日以後の相続で7年が完全適用)。
加算されるのは贈与時の価額のため、評価ゼロの今の贈与なら加算額もゼロです。

相続時精算課税は受贈者が18歳以上である必要があり(相続税法21条の9)、年少の子には使えません。
暦年課税(一般税率)となりますが、評価ゼロなら税額は生じません。

取得費

贈与なら、子は親の取得費と取得時期を引き継ぎます(所得税法60条1項1号)。
1円売買では、所得税上の時価によって次のように分かれます。

Aの場合所得税上の時価の2分の1が1円以下
親に譲渡損失が出ますが、一般株式等の譲渡所得の中でしか通算できず、
繰越もできません(租税特別措置法37条の10)。
子の取得費は1円となり(所得税法38条)、
将来の再上場や売却のときに譲渡益が大きくなります。
Bの場合所得税上の時価の2分の1が1円を超える
親の損失はなかったものとみなされ(所得税法59条2項)、
子は親の取得費を引き継ぎます(所得税法60条1項2号)。

まとめ

贈与は売買実例の議論を生まず、負担のない単純贈与なら利益相反の問題も生じにくい点で有利です。
税務上は、買戻条項のない書面贈与が最も安定すると考えられます。
売買を選ぶ理由があるとすれば、親が同じ年に一般株式等の譲渡益を持っていて、
損失と通算したい場合(Aの場合)くらいと見ています。

10 1円売買は売買実例になるか

非上場株式の時価は、最近(国税庁の解説ではおおむね6か月以内)の売買実例のうち、
適正と認められる価額があればそれによるとされています
(所得税基本通達23〜35共-9(4)イ。法人税基本通達9-1-13(1)、4-1-5(1)も同じ構造)。
親子間で、買戻条項付き、評価ゼロの時期の1円という取引は、適正な価額とは認められない可能性が高いと考えられます。

ただし、通達には「適正」の判断基準が明記されておらず、1事例でも売買実例になりうるとされています。
税制適格ストックオプションの権利行使価額の判定(租税特別措置法29条の2第1項3号)や、
第三者割当・M&Aの価格の議論で参照される余地はあり、懸念をゼロとはいえません。

法律上の立証責任は原則として課税庁にありますが、実務上は、
取引の経緯と1円とした理由を説明する資料を残しておくのが望ましいと考えます。

11 買戻条項の設計

民事上は、公序良俗(民法90条)に反しない限り、1円での買戻し合意も直ちに無効とはいえないと考えられます。
株式には民法579条の買戻し(不動産に限られる)は使えないため、
再売買の予約(民法556条)として買戻権を設けることになります。

項目リスクを下げる設計リスクが高まる設計
発動事由反社会的勢力への該当、禁錮以上の刑の確定、破産、差押え、第三者への無断譲渡など、第三者が客観的に判断できる事由「思わしくない事態」のような包括的な事由。
親の任意で行使できる定め
価格時価(第三者の算定)。
実行時の課税は生じない
1円などの固定額。
実行時に時価との差額が親への贈与になる
期間と承継行使できる期間を区切り、親の死亡時の扱いを定める無期限。
相続人へ承継され、買戻権自体が相続財産として評価の対象になる可能性
保有中の実態株主名簿は子の名義、配当は子の口座で子のために管理、議決権行使の記録、特別代理人の選任配当や議決権を親が自由に管理。
1円の資金も親が負担

固定額、広い発動事由、親の裁量という要素が重なるほど、
実行時の課税(相続税法7条)と帰属(名義株)の両面でリスクが高まります。
時価による買取りとする例が多いのは、この両方を避けるためと考えられます。

12 種類株式にする場合

取得条項付株式(会社法108条1項6号)にすると、取得するのは会社であり、親ではありません。
既存の株式に取得条項を付けるには、株主全員またはその種類の株主全員の同意が必要で(会社法110条、111条1項)、
オーナー側の協力が欠かせません。
会社が取得するときは財源規制がかかります(会社法170条5項、461条1項)。

税務上は、子から会社(法人)への時価の2分の1未満の譲渡となるため、
所得税法59条1項2号のみなし譲渡が問題になり、みなし配当(所得税法25条1項)の検討も必要です。
また、1円での取得により他の株主の持分の価値が上がるため、相続税法9条の論点が生じ、利益はオーナー側へ移ります。
親の手元へ株式を戻すという目的には、合わない可能性があります。

13 会社法・契約上の確認

14 確認事項の全件

  1. オーナーグループの議決権割合と同族株主の有無、親が役員かどうか
  2. 評価会社の区分(特定の評価会社に当たるか)と、純資産価額がゼロになる根拠(債務超過の程度、評価の時点)
  3. 親の株式の取得経緯(元から保有か、非公開化の際の再出資か)と取得価額、非公開化の際の取引価格
  4. 株主間契約と融資契約による制約、会社の譲渡承認の手続
  5. 子の年齢と親権者の構成、1円の支払資金の出所
  6. 買戻条項の発動事由、行使の判断者、価格、期間、親の死亡時の扱い
  7. 配当の有無と予定、配当を子の口座で子のために管理できるか
  8. 親に同じ年の一般株式等の譲渡益があるか(損失の通算の可否)
  9. ストックオプションの付与、第三者割当、再上場や売却の予定
  10. この取引の目的(子へ財産を移したいのか、取り戻せる状態を保ちたいのか)

15 根拠条文・通達・判例の整理

項目根拠
低額譲受のみなし贈与相続税法7条、相続税法基本通達7-1
対価を支払わないで受けた利益相続税法9条
生前贈与加算相続税法19条
相続時精算課税の要件相続税法21条の9
同族会社等の行為計算否認相続税法64条1項、所得税法157条
名義変更等と贈与相続税法基本通達9-9
非上場株式の評価財産評価基本通達178、179、185、188、188-2
みなし譲渡・低額譲渡の損失所得税法59条1項2号・2項、同法施行令169条、所得税基本通達59-6
取得費・取得費の引継ぎ所得税法38条、60条1項1号・2号
一般株式等の譲渡所得租税特別措置法37条の10
みなし配当所得税法25条1項
株式の価額(売買実例)所得税基本通達23〜35共-9、法人税基本通達9-1-13、4-1-5
税制適格ストックオプション租税特別措置法29条の2第1項3号
利益相反・無権代理民法826条1項、113条、最判昭和42年4月18日
買戻し・再売買の予約・公序良俗・仮装行為民法579条、556条、90条、94条
譲渡制限株式・取得条項付株式会社法108条1項6号、110条、111条1項、136条以下、170条5項、461条1項
持株会の固定価格での買戻し合意最判平成7年4月25日、最判平成21年2月17日
通達と異なる評価(総則6項)最判令和4年4月19日、東京高判令和7年6月19日、東京地判令和6年1月18日、東京高判令和6年8月28日
評価の見直し国税庁「取引相場のない株式等の評価に関する有識者会議」第5回(2026年8月20日)・第6回(2026年9月16日)資料
確認できていない点
  • 東京高判令和7年6月19日のその後(上告審)の結果
  • 3%の判定を個人単位とグループ単位のどちらで行うか、改正後の配当還元価額の計算方法と頭打ちの扱い、適用時期
  • 買戻権そのものを相続財産として評価した通達・裁判例